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名古屋地方裁判所 昭和30年(行)11号 判決

原告 野々村清一 外一一三名

被告 愛知県

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は「被告愛知県(県税事務所長)が別紙記載の各原告(但し、原告安田臣善、同鈴木鉦一、同高井賢次郎、同小島富夫を除く)に対しなした昭和二十八年度事業税賦課処分及び原告安田臣善、同鈴木鉦一、同高井賢次郎に対しなした同年度第二種特別所得税賦課処分並びに原告小島富夫に対しなした同年度第一種特別所得税賦課処分は、いずれも無効であることを確認する、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

被告(所轄県税事務所長)は、原告らに対する昭和二十七年度所得税における所得額を以て、県税たる昭和二十八年度事業税ないし特別所得税における課税所得の基準となし、この方法によつて、原告安田臣善、同鈴木鉦一、同高井賢次郎に対し第一種特別所得税、原告小島富夫に対し第二種特別所得税、爾余の原告らに対し事業税の各課税をなした。しかしながら右事業税又は特別所得税は国税たる所得税とは全く独立した別個の地方税であつて、国税の附加税ではないから、その課税方法も、所得税とは別個に被告(所轄県税事務所長)が自ら原告らの所得額を調査したうえ課税すべきものである。然るに本件賦課処分は、いずれもかゝる調査を経ていないのであるから、憲法の定める地方自治制度を破壊し地方税法に反する無効の処分といわなければならない。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、被告が原告らに対しそれぞれ、原告ら主張の昭和二十八年度事業税又は特別所得税を賦課したことは認めるが、右課税処分が無効であるとの原告らの主張には承服できない。すなわち、地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第七百四十一条、第七百四十四条、第七百七十六条、第七百七十七条、地方税法施行令(昭和二十五年政令第二百四十五号)第二十三条、所得税法(昭和二十二年法律第二十七号)第九条、第十条の規定により所得税法における事業所得と地方税法にいう事業(または、業務)所得とは理論的には同額となるべきであるので、愛知県では、所得税法上の事業所得ある納税者については、税務官署の認定した該事業所得額を重要な資料とし、妥当なものと認められる限り、これを地方税法上の事業所得(業務所得)として採用したので、結果において原告らに対し国の認定した事業所得と被告の決定した事業所得(業務所得)とが同一となつたにすぎず、しかも被告(所轄県税事務所長)が右事業所得(または、業務所得)を決定するのに、直接原告らに対し収支の調査をなすも、税務官署の資料その他による間接調査によるも、何ら制約はないのであるから、原告らの本訴請求は失当というべきである、と述べた。

理由

被告(所轄県税事務所長)が原告らに対し、それぞれ、原告ら主張の昭和二十八年度事業税又は特別所得税を賦課したことは当事者間に争いない。

原告らは、右課税処分は被告(所轄県税事務所長)の直接調査の結果に基いてなされたものでなく、原告らに対する昭和二十七年度所得税賦課のため国が認定した所得額を、その儘機械的に基準としてなされたものであるから、本件課税処分は無効であるという。然しながら原告の主張は、要するに、被告が認定した原告らの昭和二十七年中における、所得額自体の当否を争うものではなく、該所得算定方法を論難するに帰するものであるところ、もともと、県税たる前記事業税又は特別所得税を賦課するに当つては、必らず原告主張の如き直接調査に基き、課税標準たる所得を認定しなければならないとする法規上の根拠なきのみならず地方税たる事業税又は特別所得税の課税標準も国税たる所得税の課税標準も当該事業年度によつてうけうべき純益を客体としているものであることにおいて両者差異がなく、更に事業税又は特別所得税が所得税の補完税として資産所得重課の作用を有するものであることなどから考えても、所得税の課税標準たる所得額を基礎として事業税の課税標準たる所得額を確定すること自体は、前者の算定に誤りがない限り別段違法でない。而してかかる算定の結果に誤りがあることについて積極的な主張もない本件の場合においては原告の前記主張は理由がないものである。

如上の次第で、原告らの本訴請求は失当というべきであるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条第一項但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浜田従六 山田義光 山内茂克)

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